2.健康信念

人類の歴史は病気、とくに伝染病との闘いでした。その伝染病を駆逐したのは近代医学であると信じられてきました。ところが、公衆衛生学者が19世紀から20世紀にかけての結核や猩紅(しょうこう)熱や百日咳などの伝染病による死亡者数を調べたところ、それらの死亡者数は、医学による病因や治療法の発見よりも前からすでに減少していることがわかりました。伝染病による死者の減少は医学の進歩よりもむしろ栄養状態や衛生環境の向上によるところが大だったのです。
現代では、死をもたらす病気はガンや循環器系疾患やAIDSなどになってきました。こうした病気の発症に影響をもたらすのは、本人がどういう「健康行動」をしているか、つまり、健康に良いことをしているか、悪いことをしているかということです。医学は病気が発症してから対応しますが、その発症を防ぐのに大きな影響を与えるのは、むしろ健康行動なのです。
この健康行動を左右するのは、本人が、何が体に良くて、何が悪いのか、についてどのような考えをもっているのか、つまり健康についてどうゆう考え(思いこみ)をもっているのかということです。これを「健康信念」といいます。
健康信念はどのような健康行動をもたらすのでしょうか。両者の関係について、さまざまな理論モデルが考えられ調べられてきました。
有名なのはその名もずばり、「ヘルス・ビリーフ・モデル」というものです。このモデルでは、人がある健康行動(たとえば禁煙)をするかどうかは、次のことが影響します。
●行動の手がかり これには内的な手がかり(息切れ)と外的手がかり(禁煙についてのパンクレットをみたこと)
●病気になる可能性(喫煙で肺ガンになる可能性がどのくらい高くなるか)
●病気の重大さ(肺ガンはどのくらい大変な病気なのか)
●行動をおこした時の良いこと(利便性)(タバコをやめたら他のものが買える)
●行動をおこした時の悪いこと(コスト)(禁煙したらいらいらする)
●健康にたいしてどのくらい関心があるか(喫煙が健康を損なうことに関心がある)
●行動できるという自信(自己効力感)(私は禁煙できる自信がある)
このモデルにはいくか批判もあります。
まずここでは私たちの健康に影響を与える社会的・環境的な要因が考えられていません。しかしまあこの理論はもともと心理学のモデルなので、その件は守備範囲外だ、とかわすこともできるでしょう。
もっと重大な批判は、このモデルが、人間は情報をうけとり考えてきちんと論理的かつ合理的に行動するものだ、ということです。人間はそんなにちゃんと考えながら行動する存在でしょうか。むしろ事が終わってしまってから、なんだかんだと自分のやったことを正当化するために頭を使ったりしがちです。危ないことをしておきながら、自分は病気にならないだろうと考えている、こうしたお気楽な考え方を「非現実的楽観主義」と言います。この考え方をする人たちは、自分の危険な行動(たとえばコンドームをつかないセックス)には目をつむり、かわりに自分がしている危険性を減らす行動に焦点を合わせます(すくなくともドラッグはやっていない)。そうして自分の危険な行動を改めようとはしないのです。
健康心理学では合理的に行動する人間像をモデルにしますが、その結果それに収まりきらない人間の心理が見えてきたと言えるでしょう。
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by takumi429 | 2009-04-04 04:25 | 健康心理学 | Comments(2)
Commented at 2009-05-04 01:17 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by takumi429 at 2013-01-11 17:10
ご指摘ありがとうございました。
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