手塚治虫
いわゆる「映画的手法」の導入 『手塚治虫=ストーリーマンガの起源』より ひとつのシーンをいくつもカットに分ける。 ひとつのカットをいくつものコマに分ける。 晩年に全集版を作るとき、映画的手法をさらに意図的に適応している。 初版『新宝島』 全集版『新宝島』 ヒゲオヤジ アセチレンランプ 「落盤」 落盤事件をめぐるさまざまな証言の食い違い。 父を殺された息子は事件の真相へ迫り、犯人のアセチレンランプに復讐しようとする。 黒澤明『羅生門』にもみられる「羅生門的現実」を取り扱った作品 芥川龍之介「藪の中」原作 橋本忍脚本・黒澤明監督『羅生門』 「羅生門的現実」(話者によって構成させる現実が異なる、そうした現実のこと) 『アドルフに告ぐ』(ストリーテラー手塚が放ったストーリー・マンガの会心作のひとつ) 神戸で育ったユダヤ人のアドルフとその幼なじみでのちにナチスとなるドイツ人アドルフ、 そして、アドルフ・ヒットラー。そのヒットラーが実はユダヤ人だったという秘密をめぐっての、3人のアドルフのたどる運命。 無表情の顔のコマをはさみこむことで、ぎゃくに劇的な効果を生んでいる。 クレショフ効果を逆手につかった巧みな演出。 クレショフ効果とは、 「クレショフと私は、興味ある実験を行った。私達は、いろんな映画から有名なロシアの俳優モジューヒンの大写しをとりだした。私達は、静止的で、いかなる種類の感情も示していない大写しを選んだ。--動きのない大写しである。私は、三つの異なった結びつけ方に従って、映画の他の断片と、すべての点で同じ大写しとを結びつけた。第一のモンタージュでは、モジューヒンの大写しのすぐ後に机の上のスープ皿のカットを続けた、モジューヒンがその皿を見つめているという印象が、明瞭で、疑いのないものとなった。第二のモンタージュでは、モジューヒンの表情が、死んだ女が横たわっているクッションづきの長椅子を示す映像と結びつけられた。第三のモンタージュでは、その大写しに小さな熊の姿をしたおかしな玩具を弄ぶ小娘のカットを続けた。私達がその三つの結びつけたカットを、何にも知らされていない観衆に示した時、その結果は驚くべきことになった。観衆は、俳優の演技の前に熱狂して有頂天になった。観衆は、わすれられたスープを前にしたそのまなざしの重苦しい苦々しさを強調し、死んだ女を前にして示された深い悲しみに心動かされ、遊んでいる小娘を見詰める明るく嬉しそうな微笑に感嘆した。しかし、私達は、その三つの場合において、俳優の表情は全く同じものであることを知っていた。」(アンリ・アジェル著『映画の美学』(岡田真吉訳)白水社1958年、144-5頁) スター・システム: ハリウッドのスタジオが専属のスターを使い回しながらさまざまな映画に出演させて映画作品を作っていくシステム 手塚治虫のスターシステムの構成員:ヒゲオヤジ・アセチレンランプ・ロックホームなどなど 常連のスターを使い回してストリーを描く。 映画のスターと同じやり方。 ストーリーごとに新たな登場人物を描くのは大変。 人物の表現は類型的になりがち、それを逆手にとって、いくつかの類型的な人物表現をつかってストーリーを語る、という手法。 スター・システム(いくつもの物語を演じる固定的な人物表現) 手塚はあくまでも、物語(ストーリー)を語るために、スター・システムをつかっている。 読者は、スターが演じる物語を読む。 ストーリー(物語)vs(物語の)背景世界(舞台) キャラクター(一つの物語世界の中の個性的な登場人物) 「キャラ立ち」:登場人物が作者から離れて自立的に動き物語を作り上げていく。 「キャラが濃い」:登場人物の個性が強い。 ドストエフスキー『カラマーゾフの兄弟』 濃いキャラがどんどん勝手に動いていって物語を作っていく 読者は、物語世界とキャラクターの情報を読む。 キャラクターの自立は、ストーリー(物語)の背景となる世界が確固たるものとして立ち現れることの、ひとつの現れに他ならない。 キャラクター・マンガ 戦後マンガは手塚流のストーリー・マンガの展開であるかのごとく語られるが、じつは、ヒットしたマンガは、ストーリー・マンガとは言い難い。終わりまであらすじを見通した上で描かれるストーリー・マンガに対して、ヒットしたマンガは(多くは週1回の)連載マンガであり、またヒットしたことで連載がどんどん延長されるため、完結したストーリーを持ちづらい。結果、登場人物(キャラクター)と背景世界だけが決まっていて、キャラクターが自己展開するエピソードの連続という形を取りがちである。こうしたマンガを、「ストーリー・マンガ」と対比して「キャラクター・マンガ」と呼びたい。 「劇画」の登場 「映画的手法」の導入 石ノ森章太郎『まんが家入門』「龍神池」 この映画的手法の導入をさらにおししすすめたのが、劇画、であった。 「劇画」:写実的な作画で青年向けのシリアスなストーリーを描くもの 辰巳ヨシヒロの命名 1959年 「劇画工房」結成 「劇画工房ご案内 常に世の中は移りつつあります。鳥羽僧正に端を発したというわれる漫画界も日進月歩、昭和になって大人漫画と子供漫画とジャンルが二分され、それぞれ方向をいとするものにわかれました。 子供漫画の世界でも同じく、その読者対象によってその分野が広がりました。戦後、手塚治虫氏を主幹とするストーリイ漫画が急速に発達し、子供漫画の地位が向上、進歩の一途をたどりました。 最近になって映画、テレビ、ラジオにおける超音速的な進歩発展をうけ、ストーリイ漫画の世界にも新しい息吹がもたらされ、新しい芽が吹き出したのです。 それが“劇画”です。 劇画と漫画の相違は技法面でもあるでしょうが、大きくいって読者対象にあると考えられます。子供から大人になる過渡期においての娯楽読物が要求されながらもでなかったのは、発表機関がなかったことに原因していたのでしょう。劇画の読者対象はここにあるのです。劇画の発展の一助は貸本店にあるといってもいいと思います。 未開拓地“劇画” 劇画の前途は洋々たるものがあります。それだけに多苦多難なこともありましょう。ここに望まれるのは劇画ライターの一致協力です。 この主旨にもとずいて、このたびTS工房、関西漫画家同人、劇画工房が合併、同志の劇画ライターが協力、新しいシステムによって劇画工房なる機関が発足しました。 劇画工房のあり方というものを理解下さって諸兄のご声援をお願いします。 劇画工房 さいとうたかを 佐藤まさあき 石川フミヤス 桜井昌一 勝美ヒロシ 山崎ススム K・元美津」 (辰巳ヨシヒロ『劇画漂流』(下)304頁) 辰巳ヨシヒロ『黒い吹雪』
by takumi429
| 2011-07-23 22:16
| マンガ論
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