テレビがつまらないから映画と写真の話をしよう(講義案)

テレビがつまらないから映画と写真の話をしよう (講義案)
---ベンヤミンの複製芸術論をてがかりにして---


講義目的:映画と写真の登場が私たちにどのような思考の可能性を与えたのかを知る。


講義概要:19世紀が「小説の世紀」だとしたら、20世紀は「映像の世紀」だったと言えるでしょう。写真と映画というメディアは、私たちを取り囲む、1つの環境となりました。ではこの複製可能なメディアはどのような論理を持ち、どのような思考の可能性を私たちに与えているのでしょうか。この講義では、写真と映画やその他の芸術を、ベンヤミンの複製芸術論を手がかりにして、横断的に取り扱いながらこの問題を考察していくことにしましょう。


授業計画


1.はじめに 20世紀がまさに「映像の世紀」だったことを確認し、それが私たちにいかなる思考の可能性を与えたのか、という問題提起をすることにします。


2.ロシア・フォルマリズムの異化論とは何だったのでしょうか。私たちはそこに日常文脈に埋没してなれっこになっている(同化した)ものを、その文脈から引きはがし、異形なものとして提示する(異化する)という、20世紀の美学の誕生をみます。そしてブレヒトがこの異化をつかって、観客にあらたな社会認識をうながそうとしたことをみます。


3.映像の連続をきりとり、つなげあわせて新たなありもしない世界をつくりあげる、映画とはそういう芸術です。この映画の技法のほとんどを完成させたグリフィスの作品を観て、その技法を学びましょう。

4.ロシアにおけるモンタージュ理論は、グリフィスの作った映画技法を、理論化しました。クレショフの実験は映像のつながりが新たな意味を生むことを発見しました。さらに音楽が映像に加わることで「音楽によるクレショフ効果」(音楽による疑似的な時空間の付与)とでも呼ぶべきものが生まれることをみましょう。


5.もともと在った場所から引きはがされて、オーラをなくした映像の集積。そこに立ち現れる意味(天使)。 ベンヤミンは「技術的複製可能性の時代の芸術作品」などの一連の著作のなかでその可能性に賭けていました。ベンヤミンの思考の軌跡を追ってみましょう。


6.ナチスという政権はそれ自体が巨大な「夢工場」でした。リーフェンシュタール『意志の勝利』『オリンピア』やナチ娯楽映画をみることで、ナチスがどんな(悪)夢を作り上げていったのかを見ることにしましょう。


7.日常から引きはがされて集められた写真たちは、その写真に写っている人々の運命(ホロコースト)を語ります。瓦礫のような写真と遺物の集積からは天使ではなく、恐ろしい悪夢が立ち上がってきました。ボルタンスキーの作品にそれをみることにしましょう。


8.写真を撮ることは作為に満ちた行為です。しかし作為によって切り取られた写真の連続から立ち現れる愛する者を失った悲しみは作為を超えた「真実」となりえます。荒木経惟 『センチメンタルな旅・冬の旅』にそれをみてみましょう。


9.ベンヤミンの方法をつかって小説を書いたのが、ゼーバルトでした。彼の作品に見られる小説と写真の融合という記号と、そこから現れる、「記憶の遊歩者」を見ていきましょう。


10.さまざまな声をもつ語りから浮かび上がる「真実」 を描いたのが黒沢明の「羅生門」でした。黒沢はこれを集団脚本制作やマルチカメラの技法にも応用しました。アラン・レネはこの語りの重層性を「去年マリエンバードで」で用いたのでした。


11.クリス・マイケルの実験作『ラ・ジュテ』はスチール写真だけで構成された映画です。ここでは細分化された静止画の集積として時間が再構築されているのです。

12.映像群はつなぎ合わされ一本のリールとなります。リールとなった時間は逆戻りと反復が可能な時間となります。そうした可逆・反復可能な時間をあつかった作品、ヒッチコック『めまい』とクリストファー・ノーラン『メメント』を見てみましょう。


13.コマの連続は一つの時間を物語ることができます。わずか24頁のコマの連続によってある家族の年代記を語りきった、萩尾望都 「グレンスミスの日記」『ポーの一族』の技法を見てみることにしましょう。


14.映像の編集はべつ物語(人生)を語ることができます。映画的編集によって新たな人生をはじめること、それをジャンピエール・ジャネの映画「アメリ」に見てみましょう。


15.これまでのまとめ。映像の世紀である20世紀は私たちのいかなる可能性を与えたのでしょうか。それは映像の集積を再編集することで新たな生への可能性を指し示すことだったではないでしょうか。
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by takumi429 | 2011-11-26 03:52 | メディア環境論 | Comments(1)
Commented by 本当の「20世紀」 at 2014-03-30 19:32 x
はじめまして、こちらを時々拝見させていただいております。

上記のブログで【芸術の20世紀 喪失宣言】というのを始めました。

興味をお持ちいただけそうな方にコメントを入れさせていただいております。

こちらへの投稿は筋違いかとも思いますが、お許しください。

お読みいただければ光栄です。
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