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エミール・ゾラ『ルーゴンマッカール叢書』 まとめ

エミール・ゾラ『ルーゴンマッカール叢書』 まとめ

イタリア出身のナポレオン軍の工兵あがりの技術者を父に持ち、理工系のグランド・ゼコールを受験したゾラは社会的な装置(mécanisme)に注目しつつ、この叢書を書いた。

巻数題名あらまし装置
1『ルーゴン家の運命』ルーゴンとマッカールの家系のはじまり。
ナポレオン三世のクーデターによるプッサンの動乱。
少年シュヴェールと少女ミエットの愛し方さえ知らない幼い二人の悲劇。少女は流れ弾で死に、少年は憲兵に墓場でこめかみを打たれて死ぬ。
装置:プッサンという街。墓場(死者を飲み込む場)。

2『獲物の分け前』オスマン男爵のパリ大改造の下、地上げによって巨万の富を稼ぐアリスティッド・サッカール。若き後妻ルネは夫の連れ子マキシムと温室で不倫にふける。アリスディッドはルネから金を巻き上げて破産を免れ、ルネは若くして死ぬ。
装置:温室(人工楽園)。パリ(人工都市)

3『パリの胃袋』流刑地から逃げ帰ったフロランはパリの中央市場で働くが、そこの人々の讒言によってふたたび島が流しとなる。
装置:パリのレ・アールの中央市場

4『プッサンの征服』フォージャ神父はマルト・ルーゴンの家に住みこみ、いつしかその家ばかりかプッサン市をも支配するにいたる。しかし狂人となったマルトの夫の放火によって家もろとも焼け落ちる。
装置:王党派と共和派の両方がみおろせるマントの家。

5『ムーレ神父のあやまち』マント・ルーゴンの息子で司祭になったムーレはパラデゥ館の秘密の庭に住むアプビーヌと、アダムとイブのように愛し合う。しかし、彼が庭から去ったため、娘は死に、その葬儀を司祭である彼が司ることになる。
装置:秘密の花園。

6『ウジェーヌ=ルーゴン閣下』ウジェーヌ・ルーゴンは第3帝政で失墜の危機の乗り切り副皇帝にまでなる。装置:政治

7『居酒屋』
『居酒屋』ジェルヴェーズ・マッカールはランチエに捨てられた後、トタン職人クーバーの結婚し、洗濯屋を開業するが、舞い戻ったランチエとクーボーの二人と関係し、アル中となって貧窮死する。
装置:蒸留酒製造装置・居酒屋洗濯屋。

8『愛の1ページ』エレーム・ムーレは娘ジャンヌを救ってくれた医師と不倫し、娘はそれに嫉妬して病死する。別の男と再婚した彼女は娘の墓を訪れ去る。
装置:バルザック邸のあったパッシーの高台から見えるパリ

9『ナナ』ジェルヴェーズの娘ナナは高級娼婦となって多くの男を破滅させるが、最後は天然痘となって死ぬ。
装置:ナナの肉体。

10『ごった煮』プッサンから出てきたオクターヴ・ムーレはアパートの女たちを意のままにあやつる。オスマン様式の表面はきれいなアパートは裏では汚物にまみれ、主人たちと女中との不倫と嬰児殺しが行われている。
装置:オスマン様式のアパート(欲望の館)

11『ボヌール・デ・ダム百貨店』 オクターヴの作った世界初のデパートは女たちの欲望をあおることで大繁盛するが、周りの商店は破産させていく。
装置:デパート(欲望の館)

12『生きる喜び』海辺の家にもらわれたポリーヌ・クニュは莫大な遺産を受け取るが、養い親子に財産をすり減らされる。しかも彼女の財産を散在した婚約者サザールを友人に譲ることになる。
装置:海によって浸食される岸辺の村。金をくすねられる遺産の入った引き出し。

13『ジャルミナール』炭坑に流れ着いたエチエンヌ・ランチエは最初の夜に会ったカトリーヌに強く惹かれる。彼女もランチエに惹かれているが、結局シャバルに暴力的に女にされてしまう。エチエンヌらが中心となって起こした炭坑ストライキは失敗する。炭坑事故で坑内に閉じこめられた二人はようやく愛し合うがカトリーヌは死に、エチエンヌは助かる。労働運動の芽生えを感じつつエチエンヌは炭坑を去る。
装置:炭坑

14『制作』:印象派絵画ジェルヴェーズの長男クロードは画家となって、嵐の夜に出会ったクリスティーヌに理想のモデルを見出し、結婚する。しかしパリを描いた大作は印象派風の絵から毒々しい象徴的なものへと変貌を遂げ、作品を完成できぬまま首をつって死ぬ。
装置:キャンバス

15『大地』兵隊くずれのジャン・マッカールは、農民となってまじめに働く。フーアン老夫妻の土地の生前分与が失敗し困窮する。土地の奪い合いの中でジャンは妻も土地もなくして、軍隊にもどる。
装置:土地(投資と生産の装置)

16『夢』シドニー・ルーゴンの私生児アンジェリックは刺繍細工人に拾われて見事な刺繍細工職人となる。いつか王子さまがと夢見る彼女の元にオートクール家の跡取りフェリシアンが現れ、身分を超えての結婚式で彼女は昇天する。
装置:夢を紡ぐ刺繍

17『獣人』駅助役のルボーは若妻セヴリーヌが養父の愛人であったことを知り、養父グランモランを列車内で殺害する。それをたまたま知ったジェルヴェーズの次男クロードはセヴリーヌと愛人関係になり、ルボー殺害を計画するが、狂った殺人衝動からセヴリーヌを殺してしまう。その後ペクーの妻とも不倫したジャックはペクーと走行中の機関車(ラ・リゾン)でもみ合いとなって二人とも転落死する。運転手のない機関車は兵士を乗せて闇夜を疾走していく。
装置:機関車・鉄道

18『金銭』 地上げの後、サッカールはユニバーサル銀行を設立して、株をつり上げ、空前のバブルを出現させる。しかし株価はついに暴落して、多くの破産者を生む。
装置:株式取引所

19『壊滅』兵士の戻ったジャンは、ブルジョワ階級のモーリスと戦友となる。フランス軍は大敗し捕虜となった二人は逃げ出して、モーリスの姉のアンリエットの元でジャンは療養する。その後、モーリスはパリコミューンに参加。また軍にもどったジャンは彼と知らず銃剣で刺し、モーリスは治療のかいもなく死ぬ。惹かれ合っていたアンリエットとジャンは別れる。ジャンはフランスの再生へと歩み出す。
装置:戦争

20『パスカル博士』パスカル・ルーゴン医師は年金生活をしながら、ルーゴンとマッカールの家系の遺伝を研究し、『ルーゴンマッカール叢書』の内容と同じ文書を残す。年の差をこえて結ばれ自分の子を宿した姪のクロチルドに文書を託して死ぬ。しかし一家の汚名をおそれた母フェリシテは文書をすべて焼いてしまう。唯一残った家系図を見ながら、クロチルドは生まれた息子シャルルに授乳するのだった。
装置:家系樹。遺伝要因が交錯・発現
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by takumi429 | 2011-01-21 02:11 | ゾラ講義 | Comments(0)

サイトなどの情報

TimeOutの都市ガイドは
http://www.timeout.com/
http://shop.timeout.com/city-guides/
をごらんください。

パリの国際学生都市 の紹介は
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%9B%BD%E9%9A%9B%E5%A4%A7%E5%AD%A6%E9%83%BD%E5%B8%82
HPは
http://www.ciup.fr/en/
滞在の申し込みは
http://www.ciup.fr/en/devenir_resident/vous_etes_etudiant
http://workflow.ciup.fr/citeu/site/demande/etudiant/e_demande_maj1.php?langue=en&ete=
滞在希望期間をエントリーしておくと、それに適合した館からメールがきます。
そのなかで、あんまり立派な建物ではないけど、日本館でいいやというひとは、
http://maisondujapon.cool.ne.jp/
から申し込んでみてください。

夏休みに開催されている外国の大学のサマースクールについては
一生懸命キーワードを考えて検索してみてください。
あるいは、『地球の歩き方留学編』にも載っています。

ドイツの大学のサマースクール
DAADのサイト
http://www.daad.de/deutschland/deutsch-lernen/sommerkurse/00490.en.html
で調べることができます。
申し込みもネットでできます。

英語のサイトでわかりづらいという人は、
google のchromeをダウンロードしてつかうと、
さまざまな言語のサイトを日本語訳できます。
http://www.google.co.jp/chrome/intl/ja/landing_ch_yt.html?hl=ja

ABYZ Newslinks http://www.abyznewslinks.com/
から世界中のニュースメディアに接続できます。
日本のニュースはほんとに閉じているので、
海外のマスメディア発信のニュースを横目で常々見ておくことをおすすめします。

またgoogleのニュースhttp://news.google.co.jp/nwshp?hl=ja&tab=wn
も外国のニュースにきりかえてみることができます。

ニュースメディアによってはiTuneかRSSのマークをクリックすると、
自動的にニュースがiTuneやそれに類したソフトに配信されます。
PCにつなげればその内容がそのままiPodやそれに類したものにいれられます。

またiTunesを立ち上げて、
一番上にあるバーのなかのStore(s)のホームをクリックして画面を代え、
たとえばVOA(voice of Ameria)とかBBCという文字を
右上のムシメガネの絵のある欄に入れて検索すると
いくつもの無料配信の項目がでてきます。
その中のPodcastoのなかの項目の無料のタグをクリックすると
無用配信がiTuneにされます。
無料配信podcastはたくさんありますので、
自分の目的にあったものをさがしてみてください。
http://www.apple.com/jp/itunes/podcasts/

NHKの ニュースで英会話 http://cgi2.nhk.or.jp/e-news/index.cgi
も無料で英語ニュースから英語が勉強できます。

東外大言語モジュール http://coelang.tufs.ac.jp/modules/
をつかうと 英語、ドイツ語、フランス語、スペイン語、ポルトガル語、ロシア語、中国語、朝鮮語、モンゴル語、インドネシア語、フィリピノ語、タイ語、ラオス語、ベトナム語、カンボジア語、ウルドゥー語、ヒンディー語、アラビア語、トルコ語、日本語、が勉強できます。

役に立つサイト探しのためのサイトとしては
all about
http://allabout.co.jp/
があります。活用してみてください。

めがねさんへ
注釈が本文より多いシャーロックホームズ全集は
詳注版シャーロック・ホームズ全集
ちくま文庫版が古本で入手可。
アマゾンか日本の古本屋で検索してみてください。
https://www.kosho.or.jp/public/book/aimaisearchresult.do;jsessionid=B07873AF33FCF0BA1CD48BF7CC986908
もとの東京図書版も古本で入手可。
https://www.kosho.or.jp/public/book/detail.do?tourokubi=49A91F19777085C90B3E52FD6BA36094387BACA5B1E2755A&seq=34&sc=A97636E57E867A12C036DA8DE735CD16
名古屋市図書館にもありますよ。
https://www.library.city.nagoya.jp/licsxp-opac/WOpacTifSchCmpdExecAction.do

シャーロックホームズについてはWikipediaに各国の記事があります。
http://en.wikipedia.org/wiki/Sherlock_Holmes
一番下にはさまざまなサイトがあげられていてめまいがしそうなくらいです。

めがねさんのお友達へ
文句があるならベルサイユにいらっしゃい!  のアドレスは
http://www.monberu.com/

ヨーロッパの庭園史についての入門書は
岩切 正介ヨーロッパの庭園―美の楽園をめぐる旅』 (中公新書)
です。

経験的にいって、広く浅く勉強しようとするよりも、
気になること、おもしろそうなことを一点集中で掘り下げていった方が、
ずっと多くの広い知識と見聞をえることができるように思います。 

宝塚についてはたくさん本があるけど、
津金沢 聡広宝塚戦略―小林一三の生活文化論 (講談社現代新書)』
なんて本から読んでみてはいかがでしょうか。
品切れだけど、アマゾンの古本で簡単に手に入ります。

日本のマンガについては
呉智英『現代マンガの全体像』双葉文庫
が基本書です。
マンガ好きだとマンガのことがよくわかっていると錯覚しがちですが、
すでに手塚のストーリー・マンガの誕生から60年以上がたっています。
この間に日本で驚異の進化と発展をとげたこのメディアについては
こうした基本書を読むことも無駄ではないでしょう。

いやー、世の中おもしろいことだらけですね。
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by takumi429 | 2011-01-08 00:54 | ゾラ講義 | Comments(0)

欲望の装置としての館

欲望の装置としての館

『ゴリオ爺さん』:ゾラが手本としたバルザックの『人間喜劇』の中の名編
主人公は南フランスからパリに上ってきたラスティニャック。
舞台はラステニヤックの下宿であるヴォケール荘に集中。
まさないバルザックはお芝居を手本にして小説を書いていた。
だから小説の冒頭に、舞台装置と登場人物の描写が延々続き、その後と小説の舞台場面は1つになる。
篠沢秀夫によれば、バルザックは古典悲劇を手本に小説を書いていた。

ゾラ『ごった煮』
主人公:成功を夢見てパリへ上京してきた青年オクターヴ・ムーレ
舞台はオスマン様式のアパート
ゾラは『ゴリオ爺さん』を手本にして、あえて小説の舞台をこのアパートに集中させる。たとえばオクターヴの不倫相手ベルトの夫のオーギュストの店をこのアパートの1階に設定して、小説の舞台をアパートに集中させている。

オスマン様式アパートでは以前のパリのアパートのように、階ごとに階層がはっきりとちがう、ということはすでにない。貧しい階層はすでにオスマン化(都市整備)で「パリのシベリア」(パリの北東部)に追いやられてしまっているから。
しかし、屋根裏部屋に女中が住んでおり、また台所や便所がアパートの内庭に面した端に追いやられている。だから表面的なきれいさとは対照的に「オスマン様式のアパートは臭い」(ロジェ=アンリ・ゲラン著 『トイレの文化史』ちくま学芸文庫)

ブルジョワ達が住む、一見、立派ですまして見えるこのアパートも、実はその内実は色と金への欲望でどろどろになっている。
女中達は内庭にゴミを捨てながら、それぞれの家庭の不倫・吝嗇・諍いごとの情報を洗いざらいぶちまけている。
きれいに見えるのは外側だけ、そのはらわたは腐りきっている、というわけだ。
ゴリオ爺さんに相当するのはガラス会社の実直な会計係ジェスランで、彼は娘の不倫騒動のあげくに死ぬ。
しかし、じつはその彼も、女中アデールと関係しており、アデールは密かに出産して、赤ん坊を新聞紙に包んで街角に捨ててくる。同じ時、サロンでは嬰児殺しをけしからんとブルジョワ達がほざいている。

ここでは舞台装置であるアパートは、欲望の館(装置)となっている。ここで女達を手玉に取り、この欲望の館を支配するのが主人公オクターブである。
さらに彼は、次の『ボヌール・デ・ダーム(婦人の幸せ)百貨店』で、百貨店という欲望の館(装置)の支配者となって、女達の欲望を操るのある。
工兵あがりのイタリア人技師を父にもつゾラは、絶えずこうした装置(メカニズム)に注目する。『ゴリオ爺さん』では舞台装置だったアパートは、『ごった煮』では欲望の装置となり、『ボヌール・デ・ダーム(婦人の幸せ)百貨店』では、「欲望の喚起装置」(鹿島茂)となるのである。
ゾラはこうした人々の欲望を喚起し巻き込む装置として、株式市場、鉄道、市場、炭坑、居酒屋、デパート、戦争など描いていく。バルザックでは舞台装置だったものが、それを手本にルーゴンマッカール叢書を書いたゾラにおいては、欲望の装置へと変貌しているのだ。
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by takumi429 | 2010-12-01 20:45 | ゾラ講義 | Comments(0)

自由間接話法

自由間接話法

直接話法:登場人物の発言・独白をそのまま、「」で括って書く。
Before her body, he said (to himself),“I am a fool!”
彼女の死体の前で、彼は(自分に)言った、「おれはバカだ!」

間接話法:登場人物の発言・独白の内容を、that(que)節で括って書く。
Before her body, he said that he was a fool.
彼女の死体の前で、彼は自分はバカだと(自分に)言った。

自由間接話法:「」
Before her body; he was a fool!
彼女の死体の前で。おれはばかだ。

ゾラの師ともいえるフローベルが多用した。
括りがなくなって、地の文のなかへ、思いが溶け込んでいく。

語り手を意識させない客観的な書き方の地の文章の中に、
登場人物の思いを展開していく。

例:萩尾望都『バルバラ異界』
吹き出しつきの言葉と、吹き出しなしの言葉
地の文の語りに登場人物の思いが重なって同一化される。

ゾラも多用。
『獣人』の中での使用例。
寺田光徳「ゾラ『獣人』における自由間接話法とポリフォニー」(熊本大学文学部論叢, 90(文学篇): 1-25-1-25)
『獣人』最後の使用例:
「機械の全能性を示しながら、こうした葛藤や犯罪には無視を決め込み、列車は無関心に、無情に走り抜けていった。見知らぬ人々が途中で倒れ、車輪の下でひき殺されるのがどうしたというのだ。」
機械(機関車)が思いを語る。←自由間接話法の技法の行き着く先

ヴァージニア・ウルフ『ダロウェイ夫人』での自由間接話法(抽出話法)の多用。
登場人物の「意識の流れ」が小説の地の文をつくっていく。
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by takumi429 | 2010-12-01 20:13 | ゾラ講義 | Comments(0)

マネとゾラ(ゾラの方法)

人間は自然を取り上げ、表現する。独自の気質tempéramentを通して見た自然を描くのである。それぞれの芸術家はこのように、我々にそれぞれ異なった世界を差し出す。そして私は、これらすべての多用な世界を喜んで受け取るのだ。ただし各々は1つの気質を生き生きと表現していなければならない。『美術論』104頁

Une oeuvre d’art est un coin de la creation vu à travers un tempérament. 全集ⅩⅡp.810
芸術作品はある気質を通して見た世界の一隅である。『美術論』110頁 
ゾラの言葉を借りるなら、芸術は「ある気質を通してみた自然」にほかならない 
高階秀爾『西欧芸術の精神』青土社1979年、372頁

マネは第二帝政時代に当時の都会生活を非常に優れた職人的表現力と、才気溢れる知性で描き出した画家で、まあゾラとほぼ並べていいと思いますが、第二帝政の大変に近代的な面の観察者であり再現者であった。 平島正郎・菅野昭正・高階秀爾『徹底討論 19世紀の文学・芸術』青土社2000年、400頁

サンドーズはふたたび、ゆっくりとした口調でとぎれとぎれに話しはじめた。
「いいか、人間をあるがままに研究するのだ。もはや抽象的なあやつり人形ではなく、環境によって決定づけられ、身体の全器官のはたらきで活動する生理的人間の研究なんだ。・・・(中略)いいか、すべては相互に作用しあっているんだ。つまり人間の機構mécanismeは諸々の機能の総体なんだ!ああ、われわれの近代的革命なるもののよるべき根拠は、そこにこそあるんだ。古い社会の死、そして新しい社会の誕生、こうしてその新しい土壌には、必然的に新しい芸術が生育するのだ。・・・しかし、いまに見ることだ、来るべき科学とデモクラシーの世紀の芽生える文学が!」・・・
「なあ、そこでなんだが、おれは自分のやるべきことを見出したよ。なに、おおげさなものでなく、まあ本の人間世界の一隅coinともいえるものだ。だがそれでも人間生活全体を示すには充分なんだ。とにかく、野心はでかいぜ。・・・おれはな、1つの家族をとりあげて、その構成員の1人1人を研究してみようと思っているんだ。彼らがどこから来てどこへ行くのか、どのようにして各人が影響しあうのか、など研究する。つまり、一家族という小単位を通して人間性humanité探求、人間たるもの、いかに成長し、いかに行動するかの研究なんだ。・・・なお、それらの人物を1つの限定した時代のなかに投入し、環境やさまざまな境遇の影響するものを究めて一編の歴史を作ろうと思うのだ。それは15巻か20巻のシリーズになるだろう。といっても、各巻がそれぞれ、独自に完結する物語なんだが、それでも全体として大きな枠組みにはいっている小説シリーズなんだ。
ゾラ『制作』300-1頁 ルーゴンマッカール叢書Ⅳ巻p.554

マネ 数人のおなじみのモデルをつかって近代の生活を描く。おなじみのモデルをつかうことでその世界に見ているものが入り込みやすくなる。

バルザック 『人間喜劇』の構想 100編におよぶ小説群全体の表題
 人物再登場法 おなじみの人物をなんどもいくつかの小説の中に再登場させて、人間社会全体を描ききろうとする。

「芸術はある気質を通してみた自然」。
絵画の場合、自然を見てとらえる気質の持ち主は画家であるとまず考えられるであろう。しかし小説の場合、どの視点から物語の中の世界がとらえられるのかは、もっと複雑である。物語論ではこの、どの視点から物語られるのか、ということを「焦点化」という言葉をつかって、次の3つに分類している。
1.ゼロ焦点化・・・・・・語り手>作中人物(〈俯瞰焦点〉―― 語り手は、作中人物の誰かが知っている、ないし知覚するよりも多くを知っている、ないし物語る)
2.内的焦点化・・・・・・語り手 ≈ 作中人物(〈共有視点〉―― 語り手は、作中人物が知っている事以上のことを語らない。
3.外的焦点化・・・・・・語り手<作中人物(〈外在視点〉―― 語り手は、作中人物が知っているよりもわずかしか語らない。
1はいわゆる「神の視点」からの語りということになるし、映画ではパン・フォーカスによって登場人物全員の様子・表情が観客に一挙にわかるようなオーソン・ウエルズの映画のような場合である。
2はミステリーなどに多用される。また夏目漱石の『三四郎』は三四郎の視点からだけで語ることで、女の語る「ストレイ・シープ」という言葉が謎めいたものとなる。
3は、アガサ・クリスティの『アクロイド殺人事件』(語り手である日記の書き手はすべてを日記には書かない)やアントニオ・タブッキの『供述によるとペレイラは・・・・・・』(ペレイラの思ったことすべてが書かれない)

ゾラは登場人物の目から見た世界を描く手法(共有視点)をもちいることで、読者を、物語世界(第二帝政期の社会)へと引きずり込む。
『ボヌール・デ・ダム百貨店』の冒頭
ドゥニーズはサン=ラザール駅から歩いてきた。・・・ようやくガイヨン広場に出たとき、若い娘は驚きのあまり棒立ちになった。
「まあ、見てごらんなさいよ、ジャン」と彼女は言った。・・・
「本当に、すごいお店だわ」と彼女は、しばらく黙っていたあとでようやく口を開いた。
 それは、ミッショディエール通りとヌーヴ=サン=キュスタン通りの角にある婦人物流行店だった。そのショーウィンドウーは、10月の柔らかな淡い日ざしの中で、人目を引く鮮やかな色彩を放っていた。サン=ロック教会の鐘が8時を付けが。歩道の上は、まだ朝のパリで、事務所へと急ぐ勤め人や小走りに買い物する主婦がいるだけだ。正面の入り口の前では二人の店員が、脚殺陣の上ってウールの布地ルイをつるし終えるところで・・・。
「すごいや」とジャンは言った。・・・
「ボヌール・デ・ダム百貨店か」と、ジャンは美青年の優しい笑いを含んだ声で、看板の文字を読んだ。・・・
と延々と、おもにドゥニーズからみたボヌール・デ・ダム百貨店(の一隅)が描かれる。

同様の記述は、たとえば、島流しの島から逃げ帰ってきたフロランが仰ぎ見る、鉄とガラスでできたまばゆいレ・アールの中央市場の描写など列挙のいとまもない。

ここでは人間世界を見ているのは、さまざまな気質をもった登場人物であり、その登場人物の目をとおして、読者は、この物語世界(第二帝政期の社会)を知るのである。つまり、気質という個性をもっているのは、作家ではなくて、登場人物たちであり、その登場人物の気質によってとらえられた自然が小説を構成していく。そして気質は、ちょうど何種類か絵の具をねりあわせたように、いくつかの遺伝的な要素の組み合わせでできている。まさにルーゴンマッカール叢書という全20冊は、気質をとおしてみた人間世界、なのである。
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by takumi429 | 2010-10-28 23:33 | ゾラ講義 | Comments(0)

マネ『フォリー・ベルジェールのバー』をめぐって

マネ『フォリー・ベルジェールのバー』(1881-2年)をめぐって

この絵を見るとだれでも遠近法(perspective)のゆがみに気がつく。バー・メイドの正面にいる客の影とメイドの影は、彼女のすぐ後の鏡に映っていなくてはいけないだろう。また、鏡にうつった客とメイドの距離からして、客はメイドのすぐ前にいなくてはいけないはずである。作品の発表当時に描かれた風刺画はこの矛盾をついたものと言える。

マネ自身がかいた、この絵の習作をみると、当初はこうしたゆがみはなく、メイドの影は実物のすぐ後に描かれている。またメイドの視線も右をみており、その先に客がいて、その影が鏡に映っていて、遠近法のゆがみはそれほど見られない。

X線解析によれば、マネはメイドの影をどんどん右にずらしていき、その結果、客との距離は縮まった。
ではなぜ、マネはあえて、こうした遠近法のゆがみを採用したのだろうか。
習作と完成した絵とを比較してみよう。習作に対して完成画の大きなちがいは、(1)バー・メイドは右斜めではなく、正面(絵の観客)を見ている、(2)客とメイドは、息がかかるほど近づき相対している、(3)習作のバー・メイドは髪をアップしてきりりとした表情をした女であるのに対して、完成画のメイドは、無防備でどこかうつろな表情した娘であう。
 絵のモデルが、絵の正面を見ている、より正確にいえば、絵の観客を見ている、そうしたマネの絵を思い浮かべてみよう。
 すぐに浮かぶのが、ヴィクトリーヌ・ムーランをモデルにしたいくつかの絵である。
ヴィクトリーヌ・ムーランの肖像
彼女をモデルにして、マネは、『草上の昼食』を描き、

『オランピア』を描き、

さらに『街の女歌手』

または闘牛士(『エスパダの衣装をつけたヴィクトリーヌ・ムーラン』

最後には、『鉄道』のモデルにしている。

ほかにも、マネのお気に入りのモデルには、弟子のベルト・モリゾや妻のシュザンヌ・マネがいる。マネは近代の生活を描いた画家とされている。だが、現実の人物を描くのではなく、むしろ、おなじみのモデルを使って、さまざまな人物をモデルに演じさせて、それを描いている。
たとえば、街のカフェの情景を描いたと思われる、『プラム』でも、カフェの娘を演じているのは、友人の女優である。


何人かの特定のモデルに、さまざまな人物を演じさせる。これはちょうど、映画のスター・システムを思わせる。
ものごとの有り様は、それが展開された段階になってから振り返るとよく見えることがある。たとえば進化した人類の体の仕組みを知ったうえで、その進化の途上にあった猿たちを調べるとその体の仕組みがよく見えてくる。マルクスは『資本論』でそう言って、資本主義の段階から振り返ってそれ以前の時代をとらえなおした。
マネの絵も、その後にうまれた映画というメディアの仕組みからとらえ直しせないだろうか。

映画でしばしば見られる技法が、ツー・ショット、ショット、切り返しショットの連続である。

ショットとリバースショットの効果
観客はAまたはBになった気になる感情移入(これが映画スターへの過剰な思い入れを生む)。
観客はスターが演ずる登場人物に感情移入(乗り込む)ことで、映画のなかの物語世界を経験する。
観客が感情移入による映画の中の世界を経験しやすくするために、
おなじみの感情乗り物(スター)であったほうがいい。つまり毎回演ずる人が変わるよりもおなじみの人が演じていた方がいい。
感情の乗り物になるスターは、あまりに個性的であるために感情移入がしにくい人間であるよりも、透明感があって気持ちをとけ込めやすい人物の方がいい。だから脇役は個性的ではあるが、主役はあまり個性的すぎず、個性的でもとけ込みやすさをもっていなくてはいけない。
ともあれ、常連のスターに感情移入することで映画のなかの世界を私たちは経験する。
 さて、ここでマネの『フォリー・ベルジェールのバー』を見てみると、1つの画面のなかに、いわば映画の、肩越し(肩なめ)のショットと人物が相手の正面を向いて相手(どうじに観客)に相対しているショット、が一緒に描かれているのである。娘に向き合い、その姿が鏡に映ることで、私たちはフォリー・ベルジェールの客のひとりになっているのである。(そして私たちは映画の登場人物のようにどんどん相手にちかづいていく、それによって映画の中の世界に入り込んでいく)。マネ劇場の中のモデル、ヴィクトリーヌ・ムーランが観客の方をみていた(カメラ目線だった)のは、観客の私たちを、絵の中の世界へと導くためだったのである。そして私たちが抵抗なくその世界のなかに入れるように、彼女の表情は乗り込むための空間をもった空虚さにみちていたのである。
 そうして空ろな表情した娘と相対することで私たちは夜のパリの世界へと導かれる。見えているのは華やぎにみちた、しかしどこかまやかしの世界である。それは実体ではなく、すべて鏡にうつった虚像の世界なのである。マネの最後の傑作は、こうして私たちを虚像の、しかし輝きにみちたパリの夜の世界へと誘うのである。
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by takumi429 | 2010-10-21 12:01 | ゾラ講義 | Comments(0)

1.ゾラの生涯と第二帝政期

エミール・ゾラ著『ルーゴン・マッカール叢書』を読む
 フランス第二帝政期の欲望装置と近代の成立(映画を材料にしながら)

エミール・ゾラ(1840-1902)
フランスの小説家。今でもベストセラー作家。『ジェルミナール』(ポケット版1956-93年で320万部。『居酒屋』(同55-93年)228万部。『ボヌール・デ・ダム百貨店』(同1957-93年)127,4万冊。『ナナ』(同1957-93年)114,5万冊。『ムール神父のあやまち』(同1954-93年)115万冊。
 
年譜
1840 イタリア人技師フランソワ・ゾラの息子としてパリに生まれる。
47 父死す。
 52 エクサン・プロバンスのブルボン中学入学。
親友にポール・セザンヌ(現代絵画の元祖)とジャン・バイユ(のちに理工科大学数学教授)
54ゾラ運河開通。
58パリ移住 サン-ルイ中学入学 給費生となる。
59大学入学資格試験失敗。
60娼婦ベルトと知り合う。
61アシェット書店(現在は世界最大の雑誌出版社。ELLEなどを出版)に就職。(66年退社)。
62『クロードの告白』
66美術評論でマネらを擁護
67『エドゥアール・マネ』、『テレーズ・ラカン』(自然主義文学の宣言)

自然主義:人間という内的自然が、その環境であるもう一つの自然たる社会的環境の中でいかに生きていくかを現実に根ざして描写していこうとする文学。社会的環境の中で生きていく人間を描いたもの。近代になって変動・変容した社会環境と人間の関係を、新たな現実主義的な視点からとらえようとする。(→社会学:社会と人間の関係の把握)

マネ《エミール・ゾラの肖像》 1866年
71 『ルーゴン・マッカール叢書』(副題:第二帝政下の一家族の自然的社会的歴史)
『ルーゴン・マッカール叢書』第1巻『ルーゴン家の運命』
72 『ルーゴン・マッカール叢書』第2巻『獲物の分け前』
73 『ルーゴン・マッカール叢書』第3巻『パリの胃袋』
74 『ルーゴン・マッカール叢書』第4巻『プッサンの征服』
75 『ルーゴン・マッカール叢書』第5巻『ムーレ神父のあやまち』
76『ルーゴン・マッカール叢書』第6巻『ウジェーヌ=ルーゴン閣下』
77『ルーゴン・マッカール叢書』第7巻『居酒屋』
78『ルーゴン・マッカール叢書』第8巻『愛の1ページ』
80『ルーゴン・マッカール叢書』第9巻『ナナ』
82『ルーゴン・マッカール叢書』第10巻『ごった煮』
83『ルーゴン・マッカール叢書』第11巻『ボヌール・デ・ダム百貨店』
84『ルーゴン・マッカール叢書』第12巻『生きる喜び』
85『ルーゴン・マッカール叢書』第13巻『ジャルミナール』
86『ルーゴン・マッカール叢書』第14巻『制作』
87『ルーゴン・マッカール叢書』第15巻『大地』
88『ルーゴン・マッカール叢書』第16巻『夢』
90『ルーゴン・マッカール叢書』第17巻『獣人』
91『ルーゴン・マッカール叢書』第18巻『金銭』
92『ルーゴン・マッカール叢書』第19巻『壊滅』
93『ルーゴン・マッカール叢書』第20巻『パスカル博士』
94『三都市草書』第1巻『ルルド』
  ドレイフュス逮捕さる。
95 ドレイフュス、悪魔島に流刑。
96『三都市草書』第2巻『ローマ』
98「夜明け」紙に『告発(われ弾劾す)』を発表
  告訴、有罪となりイギリスへ亡命。
99ドレイフュス、悪魔島より帰国。
イギリスより帰国。
『四福音書』第1巻『多産』
1900 『四福音書』第2巻『労働』
01 9月29日、一酸化炭素中毒により急死。 
 03 『四福音書』第3巻『真理』

フランス史(革命後)
第一共和政(1789-1804) フランス革命(1789) 
ナポレオン帝政(1804-15)
王政復古(1814-48)
第二共和政(1848-52) ナポレオンの甥ナポレオン3世 大統領となる(1848)
第二帝政 ナポレオン3世 皇帝となる(1852)
パリ万国博覧会(1855,1867)
     オスマン男爵によるパリ大改造(1952-70) 
プロイセン・フランス戦争(1870-71)
70年9月2日ナポレオン3世スダンで捕虜となり帝政崩壊
第三共和政(1870-1940)
パリ・コミューン(1871) フランス政府軍による鎮圧(2万人の市民虐殺)
パリ万国博覧会(1889,1900) エッフェル塔(1889)
パリ万国博覧会(1900)


ヴィシー政権(1940-44) 北西部をドイツ、南部をイタリアに占領される
共和国臨時政府(1944–1946)
第四共和政 (1946–1958) アルジェリア戦争(1953-62)
第五共和政 (1958–)

ゾラは『ルーゴン・マッカール叢書』で近代社会の欲望の(喚起)装置と近代社会の病理を(綿密な現地調査に基づいて)描いた。
第1巻『ルーゴン家の運命』
第2巻『獲物の分け前』:オスマンのパリ大改造での地上げ
第3巻『パリの胃袋』:パリのレ・アールの中央市場
第6巻『ウジェーヌ=ルーゴン閣下』:権力欲うずまく政治
第7巻『居酒屋』:アルコール中毒
第9巻『ナナ』:高級娼婦
第10巻『ごった煮』:ブルジョワのアパートの表と裏。
第11巻『ボヌール・デ・ダム百貨店』:世界最初のデパート「ボン・マルシェ」がモデル。
第13巻『ジャルミナール』:炭鉱労働者のストライキ。
第14巻『制作』:印象派絵画
第15巻『大地』:農民小説
第17巻『獣人』:鉄道。鉄道殺人と鉄道事故。
第18巻『金銭』:株式バブルとその崩壊。
第19巻『壊滅』:戦争小説。

映画『ゾラの生涯』
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by takumi429 | 2010-10-03 11:09 | ゾラ講義 | Comments(0)