<   2009年 04月 ( 3 )   > この月の画像一覧

3.病気だという自覚(病識)

「さあ、治療だ」と勢い込んでいても、かんじんの病人が「自分は病気だ」と思ってくれなくては何もはじまりません(第一、そう思わなければ、病院にもクリニックにも、そもそも薬局にも来てくれません)。「自分は病気なんだ」と人が思うことを「病気の認識」(病識)といいます。
人が「自分は病気だ」と思う時には、同時に次のことを考えています。①「・・病」という病気なんだ(同定)、②これは・・・のせいでなったんだ(原因)、③これは長引く、または、すぐ治る(時間軸)、④この病気のせいでどういうことになるのか(結果)、⑤どうやったら治る(おさまる)のか(治癒・コントロール)。
つぎに、病気という問題の解決は、(1)解釈:自分の症状を病気と解釈する、(2)対処:この病気に対処する、(3)評価:治ったかどうか判断して、治ってなければ治療を継続したり変えてみたりする、という三つの段階を経ることになるでしょう。
(1)解釈と(2)対処についてさらに見てみましょう。
(1)解釈、つまり自分は病気だという解釈は、そのひとが、①どんな気分でいるのか(ムード)、②体のことにどう敏感になっているか(認知)、③どんな病気を重視する文化に属しているのか(環境)によってちがってきます。
また、(2)病気への対処(コーピング)には次の三つからなっています。
まず①自分は病気なのだという評価を下す。つぎに、②そのためにしなくてはいけないことをする、これには、病気関連のこと(病状の対処・治療から生じることの対処・医療者と関係をとり維持すること)と、一般的なこと(気持ちの維持、・自分というものを失わないこと、家族や友人との関係を維持、将来への準備)とがあります。そしてまた、③対処の技術。これには三つの方向があります。すなわち、病気の評価する・病気という問題を解決する・気持ちをなんとかする、の三つです。
べつの言い方をするならば、人は、病気という重大で深刻な事態のなかで、(1)どうしてこんなことになってしまったんだろうと考え(意味を求め)、つぎに(2)どうやったらこれを治めることができるかを考え、そうやって(3)より強い自分というものを獲得していくことで、立ち直っていくのです。
[PR]
by takumi429 | 2009-04-04 04:26 | 健康心理学 | Comments(2)

2.健康信念

人類の歴史は病気、とくに伝染病との闘いでした。その伝染病を駆逐したのは近代医学であると信じられてきました。ところが、公衆衛生学者が19世紀から20世紀にかけての結核や猩紅(しょうこう)熱や百日咳などの伝染病による死亡者数を調べたところ、それらの死亡者数は、医学による病因や治療法の発見よりも前からすでに減少していることがわかりました。伝染病による死者の減少は医学の進歩よりもむしろ栄養状態や衛生環境の向上によるところが大だったのです。
現代では、死をもたらす病気はガンや循環器系疾患やAIDSなどになってきました。こうした病気の発症に影響をもたらすのは、本人がどういう「健康行動」をしているか、つまり、健康に良いことをしているか、悪いことをしているかということです。医学は病気が発症してから対応しますが、その発症を防ぐのに大きな影響を与えるのは、むしろ健康行動なのです。
この健康行動を左右するのは、本人が、何が体に良くて、何が悪いのか、についてどのような考えをもっているのか、つまり健康についてどうゆう考え(思いこみ)をもっているのかということです。これを「健康信念」といいます。
健康信念はどのような健康行動をもたらすのでしょうか。両者の関係について、さまざまな理論モデルが考えられ調べられてきました。
有名なのはその名もずばり、「ヘルス・ビリーフ・モデル」というものです。このモデルでは、人がある健康行動(たとえば禁煙)をするかどうかは、次のことが影響します。
●行動の手がかり これには内的な手がかり(息切れ)と外的手がかり(禁煙についてのパンクレットをみたこと)
●病気になる可能性(喫煙で肺ガンになる可能性がどのくらい高くなるか)
●病気の重大さ(肺ガンはどのくらい大変な病気なのか)
●行動をおこした時の良いこと(利便性)(タバコをやめたら他のものが買える)
●行動をおこした時の悪いこと(コスト)(禁煙したらいらいらする)
●健康にたいしてどのくらい関心があるか(喫煙が健康を損なうことに関心がある)
●行動できるという自信(自己効力感)(私は禁煙できる自信がある)
このモデルにはいくか批判もあります。
まずここでは私たちの健康に影響を与える社会的・環境的な要因が考えられていません。しかしまあこの理論はもともと心理学のモデルなので、その件は守備範囲外だ、とかわすこともできるでしょう。
もっと重大な批判は、このモデルが、人間は情報をうけとり考えてきちんと論理的かつ合理的に行動するものだ、ということです。人間はそんなにちゃんと考えながら行動する存在でしょうか。むしろ事が終わってしまってから、なんだかんだと自分のやったことを正当化するために頭を使ったりしがちです。危ないことをしておきながら、自分は病気にならないだろうと考えている、こうしたお気楽な考え方を「非現実的楽観主義」と言います。この考え方をする人たちは、自分の危険な行動(たとえばコンドームをつかないセックス)には目をつむり、かわりに自分がしている危険性を減らす行動に焦点を合わせます(すくなくともドラッグはやっていない)。そうして自分の危険な行動を改めようとはしないのです。
健康心理学では合理的に行動する人間像をモデルにしますが、その結果それに収まりきらない人間の心理が見えてきたと言えるでしょう。
[PR]
by takumi429 | 2009-04-04 04:25 | 健康心理学 | Comments(2)

1.健康心理学って?

「患者さんの気持ちを理解したい」、ナースなら誰もが思うことでしょう。それには心理学、それも臨床心理学を学べばいい、そう思いがちです。でもどうもちがう。どうやら、臨床心理学は「心の病気」をあつかうらしい。でもナースが知りたいのは「病気の人の心」なのです。
病気の人の心もさまざまです。まず病気の結果としての心理があります。医学ではもっぱら病人の心理は病気の結果だとされます。なぜなら、病気は身体に入り込んだもの(病因)によって肉体の一部が生理的に変化したことと考えるからです。病気を治すには薬などそれをやっつけたり手術で取り除いたりすればいい。身体の変化が心に影響を与えても、心が身体に影響を与えることはない、病気が治れば病人の心理もよくなる、と考えます。生物学に依拠した医学(生物医学)のこうした考え方を「身体医学モデル」といいます。
しかし、病気に影響を与えるような心理もあります。すぐに思いつくのはストレスでしょう。ストレスで胃潰瘍になったりするような直接的なものもあれば、職場のストレスのせいでタバコがやめられなくて肺ガンになったりするような間接的なものもあります。人の心理と身体、さらにはその環境である社会は相互に絡み合い影響しあっています。(こうした考えを「身体心理社会モデル」といいます)。
ナースがほんとうに知りたいのは、こうした、人の健康状態に影響を与えたり与えられたりする心理なのではないでしょうか。じつはこうした心理を探る心理学があるのです。それをhealth psychologyといいます。ふつう「健康心理学」と訳されますが、これだと健康状態の良い方だけの心理学だと勘違いしかねません。healthという英語には健康状態の悪い方、も含まれています。ですから、むしろ「病いと健康の心理学」と訳した方がわかりやすいでしょう。
さてこの、病いと健康の心理学は、私たちにどんなことを教えてくれるのでしょうか。それを次回からみていくことにしましょう!
[PR]
by takumi429 | 2009-04-04 04:24 | 健康心理学 | Comments(0)