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NCU先端科目 第8回 現象学と家族療法

0.導入
サイバネティクスを導入したロイ看護理論
 生理的自己の恒常性(血糖値・体温などなど)維持(適応)=ホメオスタシス 
  自分で維持しきれないとき介助するのが看護
 心理社会的な自己の恒常性
   エアコンの設定温度にあたるのは何か?→自己概念
1.自己概念
「みにくいアヒルの子」
 人間は自己イメージに基づいてふるまう
 平均体重以下なのに「太っている」と思ってダイエットする
 自己概念は親しい人の反応から作られる(親・配偶者は鏡)
 人工肛門設営後、妻に「臭い」と言われて自殺した元患者。
 乳房切除によって自分の女としてアイデンティティーが崩れる。

2.文化人類学と医療人類学
 文化の外から見たもの 文化の内から見たもの
 裸踊り        雨乞い
 大文字焼き      五山の送り火
 疾患(disease)     病い(illness)
 上気道感染      風邪(邪悪な空気)
説明モデル(病気の原因と対処法などのストーリー)
 風呂上がりに裸のままいて、冷たい空気に触れたから風邪をひいた。暖かくして精のつくものを飲んで寝るに限る。
人は文化の中で病む。
身体化(精神的なストレスが身体的不調として現れる。東アジアに頻出)

3.心理学と現象学
1)心理学の3バージョン
 ①内観心理学
 ②行動主義心理学
 ③認知心理学
   コンピューター(電脳)によるシュミレーション
 どれも人間の内的苦悩・不安には関わらない
  →現象学(内観心理学の哲学的展開)の導入
2)現象学
  例:関西に逃げ帰った神戸女学院(≒南山+金城)卒の嫁 心の中の地図
 心の中の地図に物事がどう現れるか
  例:晴れるとなぜ傘をわすれるのか。
     気がかりによって現れたり消えたりする傘
  気づかいの存在:人間(ハイデッガー)
  例:ピアニストになろうと努力してきた青年が腱鞘炎になった。 例:シューマン
    →(意味)世界の崩壊→治療だけでなく意味世界の再建が必要。
   比較:一般人が腱鞘炎になった→世界は崩壊せず
 ストレスの現象学
  人生のさまざまな出来事は一様に人々にストレスを与えるわけではない。  
  「えらいこっちゃ」と思えるかどうかによってストレスはちがう 
  失業→何の資格もない田舎大学教師:人生の危機
  失業→国家資格をもつ医師・看護婦・薬剤師:転職のチャンス
  配偶者の死→妻に依存していた人:壊滅的ダメージ
  配偶者の死→家庭内離婚状態だった人:再婚のチャンス
   心の地図の中では配偶者は、近しい/遠い  
3)人工知能論とベナー看護理論
 人工知能論の3つのブーム

人工知能(AI)の3つのブーム
第一次AIブーム(1950年代~1960年代)
 1956年夏 ダートマス会議 
  「人工知能」:機械に人間の知的能力を模倣(シュミレーション)させる
 計算を効率化させる理論の不足とコンピューターの処理能力の不足によりすぼむ。
第二次AIブーム(1980年代~1990年代)
 エキスパート・システム スタンフォード大学のファイゲンバウムら
  エキスパートの診断の仕方をコンピューターに移す。
  「もし・・・なら、・・・せよ」
  みずからは学習をおこなわない。エキスパートの知識による診断を再現するだけ
第三次AIブーム(2000年代~)
 脳の神経系を数理的にコンピューターで再現
 みずから学習するコンピューターの出現(機械学習)
 ヨビノリ 機械学習

ベナー看護理論が影響を受けているのは、
第二次AIブーム、とくにエキスパート・システムに対する
ドレイファス兄弟の反人工知能論

ドレイファス兄弟の「技術習得モデル」
①初心者 状況を見ずに規則通りにふるまう
②上達した初心者 状況依存の要素にきづく
③上級者 目的をもって臨機応変にふるまう
④熟練者 過去の記憶と比較しつつ状況を把握する
⑤エキスパート 技術は体の一部となって意識にのぼらなくなる
AIはせいぜい③にしかたどりつかない、とドレイファス兄弟は主張。
看護においてこの理論の検証を依頼→ベナー看護理論

ベナーの提唱する看護のおける技術習得モデル
①初心者 状況と関係なくバイタルサインのデータだけに注目して原則論をふりまわされる
②上達した初心者 くりかえし起こる意味ある状況に気づく
③上級者 看護計画を立てて看護できる
④熟練者 状況を全体的にとらえ「格律」(maxim)よって看護する
 maxim (格律・金言・格言)
熟練した者だけが使い理解できる言い回し
 例:ボールは上からたたけ(野球) 
   鉗子はすこし上から滑らすように差し入れろ(日野原←ベテラン看護師)
⑤エキスパート 状況を直感的に把握し問題を正確につかむ

4.家族療法と家族看護学
 家族療法 
  家族をシステムとみなす
  家族間のコミュニケーションの悪循環をみつける(誰が悪いと決めつけない)
  ケース
主婦A(43歳)は、神経性の下痢で入院していた。ほぼ治癒して退院したのだが、家に戻るとまた再発してしまった。Aさんの病状はAさんだけも問題ではないと感じた看護師たちは、Aさんの家族を呼んで話を聞いてみた。
面接の場で、Aさんの夫は家族に背を向けて座り、もっぱらAさんに向かってだけ断定的な口調で話をしていた。それに対して、子どもたちももっぱらAさんにうったえるかたちで話をしていた。
Aさんが、親同士のコミュニケーションと子どもたちのコミュニケーションの間にあってちょうど両者から圧力をうけるかたちになっているのがみてとれた。

家族療法
病んでいるのはシステムとしての家族
それが家族の一人に顕在化しただけ

直線的因果論から円環的因果論へ
犯人探しの介入をしない
 家族看護学:患者を含む家族全体を看護の対象とみなす

 ベイトソンの理論(→家族療法)
家族はサイバネティクス的なシステムである

ベイトソン理論理解のために
1)うそつきのパラドクスの階層化による解決
2)暴走するエアコン
3)ダブルバインド論

嘘つきのパラドクス
「私の言うことはウソだ」

階層化による解決
「私の言うことはうそだ」←これだけはうそではない
 統合失調性患者はこの階層化できない
  冗談が通じない

エアコンの暴走
「冷房と暖房を両方かける」
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共依存
妻がつくせばつくすほど、ずにのって荒れる夫
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ダブルバインド
統合失調症の説明
ベイトソンはこんな例を挙げています。
「ダブルバインド状況を浮彫りにする出来事が、分裂症患者とその母親との間で観察されている。分裂症の強度の発作からかなり回復した若者のところへ、母親が見舞いに来た。喜んだ若者が衝動的に母の肩を抱くと、母親は身体をこわばらせた。彼が手を引っ込めると、彼女は「もうわたしのことが好きじゃないの?」と尋ね、息子が顔を赤らめるのを見て「そんなにまごついちゃいけないわ。自分の気持ちを恐れることなんかないのよ」と言いきかせた。患者はその後ほんの数分しか母親と一緒にいることができず、彼女が帰ったあと病院の清掃夫に襲いかかり、ショック治療室に連れていかれた。」(『精神の生態学』306頁)
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矛盾したフィードバックと階層化の禁止

# by takumi429 | 2021-05-09 17:46

NCU先端科目 第7回 看護学の誕生と展開

Ⅰ看護学の誕生と展開
1.ナイチンゲール 看護の立場の確立
1)嗅覚革命と公衆衛生学
  18世紀からの嗅覚革命 アラン・コルバン『においの歴史―嗅覚と社会的想像力』
 アナール学派:人間の感覚も時代によって変化する
  ロンドンとパリの都市改造
  臭気革命説による小説:パトリック・ジュースキント『ある人殺しの物語 香水』
感染医学の興隆
 特定病因論
  脚気治療の遅れ ビタミンB1欠乏 脚気病原菌を想定

公衆衛生学と感染医学 
 比較検証の事例 台湾と石垣島

衛生学の影響を受けたナイチンゲール

介入的(治してやる)医学との距離
「病気とは回復過程である」:自ら治っていく病人

看護のABC(イロハ)
ナイチンゲール『看護覚書』
「看護婦が学ぶべきAは、病気の人間とはどういう存在であるかを知ることである。Bは、病気の人間に対してどのように行動すべきかを知ることである。Cは、自分の患者は病気の人間であって動物でないということをわきまえるべきである」

C:人間とは

A:病人とは

B:看護とは
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2.影響を与えた理論と看護理論

1)システム理論
 ①均衡のシステム論
 ②サイバネティクス論 
  設定温度を維持するシステム 
   設定温度にあたるもの
 ③自己組織化論

2)社会心理学(自己概念)
 「みにくいアヒルの子」
 人間は自己イメージに基づいてふるまう
 平均体重以下なのに「太っている」と思ってダイエットする
 自己概念は親しい人の反応から作られる(親・配偶者は鏡)
 人工肛門設営後、妻に「臭い」と言われて自殺した元患者。
 乳房切除によって自分の女としてアイデンティティーが崩れる。

3)文化人類学と医療人類学
 文化の外から見たもの 文化の内から見たもの
 裸踊り        雨乞い
 大文字焼き      五山の送り火
 疾患(disease)     病い(illness)
 上気道感染      風邪(邪悪な空気)
説明モデル(病気の原因と対処法などのストーリー)
 風呂上がりに裸のままいて、冷たい空気に触れたから風邪をひいた。暖かくして精のつくものを飲んで寝るに限る。
人は文化の中で病む。
身体化(精神的なストレスが身体的不調として現れる。東アジアに頻出)

4)心理学と現象学
次回へ

# by takumi429 | 2021-05-05 17:03

医療社会学 第3回

心理学と看護理論

1.心理学
2.臨床心理学
3.ペプロウの看護理論


1.心理学
そのモデルチェンジ
①内観心理学 内観(内省)による心理学 自分の意識体験を観察
   →現象学
②行動主義心理学
 パブロフの条件反射
  餌+ベル→犬→よだれ
    ベル→犬→よだれ
    ベル(刺激)→よだれ(反応)のパターンの確立(学習)
 刺激(S)と反応(R)のパターンを探るのが「心理学」
 人間心理はブラックボックス 「そんなものわかるわけない」

③認知心理学
   認知(頭の働きかた)をさぐる 
   人間の頭を解剖できないししても認知の仕組みがわかるとは限らない
   コンピューター(電脳)でシュミレーション
    同じ刺激(インプット)に対して同じ反応(アウトプット)がでてくるなら、
    同じことが、内部でおこなわれているかもしれない(強いAI)

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人間心理そのものからどんどん遠ざかっていく

2精神分析からカウンセリングへ
1)フロイドの精神分析
 夢解釈 ある婦人の夢
  抑圧された無意識は夢や間違いに現れる
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意識の3分類
 意識 
 前意識(さっきまで意識されていた)
 無意識(意識することを抑えつけられている)
意識の3層
 エス(それ) 本能のるつぼ
 自我
 超自我(自我を裁く 成長期の両親の要求と禁止が内面化したもの)
エディプス・コンプレックス
 母親と一体になりたい欲望を禁止された青年は父のようになって母のような女を得ようとする。
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2.サリヴァンの人間関係論的精神医学
 転移:患者が本来身近な人間にもっていた感情を治療者に向けること
 転移を利用して、患者が誰にどんな問題を抱えているか、をさぐる
 人間関係(コミュニケーション)のゆがみ→精神のゆがみ

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         パラタクシス的対人関係(≒転移)

3.ロジャーズのカウンセリング
クライエント(心理的問題をかかえた人) 自己概念と実際の自分のと不一致に苦しむ
 一人息子が家を出る 息子の成長のためにりりしく見送る私⇔一緒にいてほしいと思う私
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3.ペプロウの看護理論
サリヴァンの精神医学の影響? 転移への注目
 看護師にたいする患者の転移 ときには母親、ときには姉、ときには先生、ときには同僚、を求める
 あえてその期待に応えてやろう
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# by takumi429 | 2021-04-26 20:12

医療社会学講義 第2回

システム理論を導入した看護理論
看護学にはシステム理論を導入したさまざまな看護理論がある。
今回の授業ではシステム理論を概観したうえで、それを導入している看護理論、とくにロイの看護理論を解説する。

システムとはなにか?
カタカナ言葉に困ったときには、英英辞典を引こう。
system (Longman Dictionary of Contemporary English)
1 a group of related parts that work together as a whole for particular purpose
2 an organized set of ideas, methods, way of working
オレムの「看護システム」の「システム」がこれ。
4 someone's body - used when your are talking about its medical or physical condition 人体を「システム」と呼ぶことがある。

1と2の定義から
①システムとは全体として働くもの
②何をシステムとみなすかの水準はさまざま
 人体、医療スタッフのような人のグループ、細胞(生存しようとする)、すべてシステム

システム理論の発想
①システムは、個々の要素に還元できない性格を持っている。
 例1:有名音楽バンドが解散して尻すぼみのソロ活動
 バンドには個々のメンバーからは説明できない「ケミストリー」(化学反応)があった。
 例2:拒食症の子のいる家族
 個々人には問題がないのに家族集団になると問題をかかえる。
 誰が悪い、のでもなく、誰のせいでもなく、めぐりめぐる因果の病理が拒食症として現れる
②システムの中では因果関係が直線的ではなく円環的である
③システム理論のモデル・チェンジ(システム理論の発展・進化)
 1)つり合い(均衡)のシステム理論
  力学的のつり合いをイメージ。
  需要と供給のつり合いによる価格決定
  男女のペア(保守的男性のイメージ)
   私(夫):外で働き家で食べる人 君(妻):家を守り料理を作る人 
   男性アナ:仕切り・コメントする 女性アナ:無知でかわいくふるまう 
 2)恒常性維持のシステム理論
  ①ホメオスタシス
  ②サイバネティクス
 3)自己組織化のシステム理論

ホメオスタシス
 生物の自己維持のはたらき
 例:血糖値の維持 
  血糖値低下→アドレナリン分泌→血糖値の上昇
  血糖値上昇→インシュリン分泌→血糖値の低下
サイバネティクス
 フィードバック(自分のしたことが自分にかえってくること)による自己制御(恒常性持)
 例:エアコン(設定温度の維持)
 室温上昇→冷房の作動→室温低下
 室温低下→暖房の作動→室温上昇

ロイの看護理論
 サイバネティクス理論の導入
 人間=サイバネティクスによるシステム
 適応:外界(環境)にこうして自己の恒常性を維持すること
  人間 生理的自己維持←調節機による適応反応
    心理社会的自己維持←認知機による適応反応

 心理社会的自己はどんな様式で現れるのか
 ①自己概念様式 
   私にとっての私
 ②役割様式
   彼らにとって私
 ③相互依存様式
   あなたにとっての私

病人:生理的のみならず社会心理的レベルでも自己を維持できなくなった人間
看護:病人の自己維持をバックアップする

# by takumi429 | 2021-04-19 17:42

医療社会学講義(2021) 第1回

第1回 ナイチンゲールの看護論から

1西洋近代医学の考え方
 特定病因論
  生物医学
   病気Aにはその原因aがある。
   A←a B←b
  公衆衛生学
   臭覚革命1760-1840年 
   「臭いは危ない」→「瘴気説」 
   上水道の整備・都市再開発
  細菌学の勝利
   殺菌優先 インフラ整備は後回し
 比較対照の事例:台湾と石垣島(距離約300キロ)
  台湾 日清戦争後獲得
  「マラリアとギャングの島」
  後藤新平(元名古屋病院院長)らによる徹底的なインフラ整備
   →マラリアの駆除
   近代的な都市の島に
  石垣島
   終戦直前の奥地への避難命令→マラリアのまん延(「戦争マラリア」)
   米軍DDT(白い殺虫薬)によるマラリア蚊の駆除→マラリア撲滅
   南洋の夢の島のまま

 細菌学の勝利は本当か? 
  教科書5頁図1-1医学の進歩と死亡率の低下

2ナイチンゲールの看護論 
  公衆衛生学の影響をうけたナイチンゲール(統計学者としても一流)
   https://www.sciencemuseum.org.uk/objects-and-stories/florence-nightingale-pioneer-statistician
  医師とはちがう発想で患者に接する 
   「治してやる」ではなく「治っていく」のを手助けする
   ナイチンゲール:「病気とは回復過程である」
    患者:回復に自ら向かう能動的な人間

3看護理論における展開
 『看護覚え書』「補章」
「看護婦が学ぶべきAは、病気の人間とはどういう存在であるかを知ることである。
Bは、病気の人間にたいしてどのように行動すべきかを知ることである。
Cは、人の患者は病気の人間であって動物でないということをわきまえるべきである」
1)C:人間は何か。
2)A:病気の人間とは何か。どうなったら人間は病気の人間になるのか。
3)B:病気の人間の看護はどう働きかけるべきか。すなわち看護とは何か。

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課題

教科書 2-12頁を読んでください。
Google Scholar で
Nightingale statistics を検索してみてください。
Google 翻訳などを使って、
どんな論文がなのか、調べてみてください。


# by takumi429 | 2021-04-10 00:16