少女マンガの巨匠(偉大なるストーリーテラーたち)
美内すずえ『ガラスの仮面』(1976年~) あらすじ かつての名女優、月影千草のみが演ずることを許された幻の戯曲「紅天女」。舞台での事故で引退を余儀なくされた月影は、この芝居を演じさせる女優をさがしていた。そしてラーメン屋に住み込み出前をしていた北島マヤを見出す。マヤは一度観た芝居はすべて正確に再現できるという才能を持っていた。月影は自ら創設した劇団つきかげにマヤを入団させ育てようとする。 しかし、大都芸能の社長、早水真澄は「紅天女」の上演権をねらい、これを月影の弟子であった名女優、姫川歌子の娘で、劇団オンディーヌに所属する姫川亜弓させようとする。 演劇大会で、「たけくらべ」の美登里を見事に演じた亜弓にたいして、マヤはおなじ美登里をこれまた見事に演じる。 大都芸能の妨害のため、劇団つきかげは弱小の小演劇集団になってしまうが、マヤはその才能を開花させていく。そうしたマヤを影から応援し、紫のバラを送り続けるあしながおじさん(「紫のバラ人」)こそ、じつは早水真澄であったのを、マヤは知らない。 連続ドラマの主役などにも選ばれたマヤであった。しかし、付き人として近づいた、乙部のりえ、の策略のために芸能界から追放されてしまう。ライバルを陥れた乙部のりえを、亜弓は舞台の上で圧倒的な力の差を見せつけることで完膚無きまでにたたきのめした。 母を失い、芸能界からも追放されたマヤであったが、学園祭でのひとり芝居からはじめて復活していく。 そうしてついに、亜弓とマヤは「紅天女」をどちらが演ずるかをめぐって、梅の里で、月影のもと、風、火、水、土、のエチュード(即興劇、演劇において状況や場面、人物の性格だけを設定し、台本を使わずその場の受け答えを基に役者が動作や台詞を創造していく芝居)を行う。また能面をつけた月影千草は、付き人の小林源蔵の伴奏・共演のもと、「紅天女」の大部分を演じてみせた。こうして「紅天女」の全貌はほぼ明らかになった。 東京にもどった、二人は「紅天女」のオーディションを争うことになった。しかし、「紫の人」がだれあろう早水であることをマヤは知る。さらに早水が鷹通グループ会長の孫娘、鷹宮紫織と婚約して、二人の関係は切迫したものになっていく。また事故でほとんど目が見えなくなってしまった亜弓は、その事をかくしたままオーディションを受けようと、女優の母、歌子と、目の見えぬ状態での演技の特訓をするのであった。 さて、マヤと早水は結ばれるのか、「紅天女」を演ずるのは、亜弓かマヤなのか。物語は最後のクライマックスへと突入していくのである。 「紅天女」のモデルとなったのは、木下順二の「夕鶴」。木下は女優、山本安英のみにこの劇の上演を許していた。 作品の魅力の一つに劇中劇がある。 物語の中でさまざまな劇が登場し、それを、マヤや亜弓が演じていくことで幾重にもかさなり奥行きのある物語となっている。 劇中劇を、マヤと亜弓がどう演じているのか、二人の演じ方の違いは、当初の「たけくらべ」あたりでははっきりしていないが、連載が進むにつれてしだいにはっきりとした違いとなってきた。 亜弓の演じ方は、訓練を重ねた確かな技能と見事な身体の動きによって、演じきること。 マヤの演じ方は、登場人物になりきって演じること。 マヤの演じ方には、アメリカのメソッド演技をおもわせるものがある。「メソッド演技法とは、ロシアのコンスタンチン・スタニスラフスキーの影響を受けたリー・ストラスバーグらアメリカの演劇陣によって、1940年代にアメリカで確立・体系化された演技法・演劇理論である。役柄の内面に注目し、感情を追体験することなどによって、より自然でリアリステックな演技・表現を行うことに特徴がある」(wikipedeiaをすこし改変)。その総本山とされるのが、ニューヨークのアクターズ・スタジオである。ここで学んだ俳優は、メソッド演技の開祖とでもいえる、マーロン・ブランド、ダスティ・ホフマン、アル・パチーノ、マリリン・モンローなど。現在のこの演劇法は、、ロバート・デニーロなどハリウッド映画の演技派のほとんどが採用さいている演技法と言える。(ただしイギリスの俳優の演技法はこれとはことなる)。 「ガラスの仮面」の劇中劇としても取り入れられている「奇跡の人」はまさにこうしたメソッド演技の典型ともいえるもの。元、盲目であったサリバン先生を演ずるために、アン・バンクロフトは、何週間も目を覆って、盲人同様に闇の世界で暮らしてみたという。 ただこのメソッド演技は、自分のなかにある怒り・悲しみ・狂気というものを掘り起こし肥大化させる作業を伴い、結果、精神的に非常に不安定な状態に陥ることがある。その悲劇的結果ともいえるのが、『ダーク・ナイト』(2008年)で、悪役ジョーカーを演じ、作品の完成前に、睡眠薬などの過剰摂取で死んだヒース・レジャーである。(死後、アカデミー助演男優賞を受賞)。 美内みすずの『ガラスの仮面』は、24年組登場の後にもかからわらず、古い記号的な少女マンガ(意味のない花、大げさな髪型など)の表現法をとっている。それでも読者を引きつけて放さないストーリーのおもしろさに満ちている。 一条ゆかり 『デザイナー』集英社『りぼん』(集英社)1974年2月-12月号 「過去を捨てた孤高のファッションモデル・亜美は、トップデザイナー・鳳麗香にライバル心を燃やす。互いのプライドを賭けた闘いを描く。後にデザイナーとして鎬を削る亜美だが、それは悲劇への始まりに過ぎなかった…」(Wikipediaより) 秘書の柾(まさき)の作画は、大矢ちき が担当。 亜美のライバルの鳳麗香はじつは母、彼女と結ばれる結城朱鷺は実は兄弟。朱鷺の仕掛けた「ゲーム」の成就をたすけるのが秘書の柾。しかし朱鷺を愛する柾は、この近親結婚を暴露して亜美を破滅させる。 『砂の城』 「りぼん」連載。1977年7月号から1979年7月まで、および1980年9月号から1981年11月号まで掲載。 「裕福な家庭に生まれたナタリーと、彼女の誕生日に屋敷の前に捨てられたフランシスは、兄妹同然に育てられ、やがて二人は惹かれ合う。はじめは強く二人の交際に反対していたナタリーの父親も、交際を公認するが、三年に渡って家を離れて学業を修めたフランシスの帰省直後、両親二人が事故で帰らぬ人となる。後を任された伯母の強硬な反対に、二人は死を決意し絶壁から飛び降りてしまう。奇跡的に救助されたナタリーが、行方不明となったフランシスの面影を胸に学生生活を送っていたある日、彼を見かけたとの噂を聞く。ナタリーが訪ねてみると、記憶をなくしたフランシスは結婚し男の子が生まれていた。フランシスはナタリーを見て記憶を取り戻すが、その直後に交通事故で帰らぬ人となり、彼の妻も後を追う。残された子に「フランシス」という名前をつけて引き取るナタリー。やがて、青春時代を迎えたフランシスはナタリーを意識し始め、そしてナタリーもまた……。」(Wikipediaより) 血縁関係がドラマの構造を決定する。源氏物語からめんめんと続く、女流文学の構造。女性が生む(血縁を生産する)存在であるため。 『有閑倶楽部』 男3人女3人の登場人物によるはちゃめちゃ学園アクション・コメディ 『デザイナー』の柾にみられるように、性的に成熟し少女たちを性の世界へと誘惑する男性が、少女マンガに描かれるようになった。この転換にあたって決定的な影響をもったのが、大矢ちきであった。 大矢ちき 『雪割草』 白血病で余命幾ばくもないスケーター、プリシラ・ジルを、レックス・グイド見つめ(誘惑して)死に至るペアスケートをともにする。 レックス・グレイドの大人びた性へと誘い込む表情。『砂の城』の秘書、柾のキャラクターとなる。 鼻の穴をきれいに描くのはむずかしい。美大(愛知県立芸術大学)出身の大矢ちきならではの画力。 この鼻の穴をうまく描けるのは最近では、アニメ『戦闘妖精・雪風』のキャラクターデザインを担当した多田由美くらいのもの。
by takumi429
| 2011-07-27 07:52
| マンガ論
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