3.物語の形式

3. 物語の形式
「物語は直線的な語りで話してはならない。それ以外の語りの可能性はいっぱいある。映画はその可能性を豊かにするだけなのである。」(ピーター・グリューナゥエイ)

観客が、映画を構造化する装置としての物語の役割に習熟すると、登場人物が変わり成長するのを把握し、並行とモチーフを認識し、そしてもっとも重要なことは、これらの細部を総合して、映画のテーマの解釈を作り上げることができるようになる。

物語とは、時空間の起こる一連の出来事である。でたらめな出来事ではなくて、原因と結果の論理によって結びつけられた一連の出来事である。
因果の論理は、登場人物の性格、目的、困難、行動をつなぎ合わせる。
物語映画はふつう、人間の登場人物とその葛藤に焦点をあわせる。
登場人物は目的をはたすために困難に遭遇する。
多くの物語映画の登場人物は、いくつものレベルの困難に打ち勝つ。
映画作成者はストーリーの細部を体系的に組み上げて、観客にとてって意味のある楽しめる経験を作り上げる。

フィクションの世界を枠づける:
ダイエジェティックdiegetic(物語世界内の)要素と
非ダイエジェティックnon-diegetic(物語世界外の)要素

diegesisダイエジェシス:物語世界(フィクションの世界)

Voice-overボイス・オーバー 画面上にいない語り手の声が流れてくること
語り手が、物語世界の登場人物ではない場合(non-diegetic)と、登場人物の場合(diegetic)とがある。
『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』The Royal Tenenbaums ではナレーションだけでなく、本の見出しまで出てくる。

音楽 物語世界の外から挿入されてくることも多い。
オダギリジョー主演ライフカードCM『マドンナ篇 封印』
 non-diegeticな音楽かと思うと実はdiegeticな音楽であったというひねり。

物語世界のなかで:出来事を選び並べる
上演時間は90分から120分ぐらい。
現実の時間をそのまま上演することはまれ。
 ヒッチコックの『ロープ』(1948)はそれに挑戦

ふつう、時間にそって流れる物語全体(ファブラfabula)を見せることはなく、そのなからか出来事を選択して並べ見せている。こういう見せ語られる物語をシュジェートsyuzhetという(もともとはロシア・フォルマリズムの用語)。
「ストーリー」storyをファブラfabula に
「プロット」plotをシュジェートsyuzhet に
当てることがあるが、論者によってまちまちだし、一般観客はどちらの語も物語一般に使うことも多いので、この際、このロシア語をつかうことにしよう。

シュジェートは時間順に沿う必要はない。
フラッシュバックflashbackで過去の出来事のカットを瞬間挿入することも
フラッシュフォワードflashforwardで未来の出来事のカットを瞬間挿入することもできる。
また『パルプ・フィクション』(タランティーノ)のように時間の並べ方を大幅に切り貼りして前後させることもできる。
『過去を逃れて』Out of the Past(1947)
1.平和な小さな町でガソリンスタンドを営むジェフのもとに、一人の男がやってくる。彼はジェフの古い友人と称して、ジェフに丘の屋敷へ来るように言う。
2.深夜、結婚を誓いあったアンを車に乗せ屋敷に向かいながら、ジェフは彼の過去を話し始める。彼は探偵としてギャングのボスの情婦を追うが、彼女の美しさに魅せられ、二人でサンフランシスコで逃亡生活をした。しかし元の探偵仲間に見つかってしまう。二人がもみ合っている時、情婦は元の仲間(今は密告者)を射殺して、姿をくらました。話し終え、朝になり屋敷についたジェフはアンをそのまま帰らせる。
3.屋敷にはギャングのボスと、彼がかつて愛した情婦がいた。ボスは過去の話は水に流すとして、ジェフに脱税の担当者から脅迫されているのでその書類を奪ってほしいと依頼される。秘書の手引きで担当者に会いに行き、再度担当者の元にいくと担当者は殺されており、容疑はジェフにかかっていた。はめられたと知ったジェフはボスにかけあって無実を証明するところまでもっていくのだが、ボスは情婦に殺され、情婦はジェフに金をもって二人で逃げようと提案する。車で屋敷を出たところに、ジェフの通報により警察が待ち受ける。ジェフの裏切りを知った情婦がジェフを射殺するが、彼女も警察により射殺される。
4.ジェフの死後、アンは、ジェフは情婦と逃げるつもりだったのか、ジェフの下で働いていた聾者に聞く。ジェフのことを忘れさせるのがジェフの本意だろうと思った聾者は、そうだと答え、アンを過去から解放させようとする。

ファブラ
探偵のジェフが依頼をうけて女を見つけ、女と逃亡生活をする。元の仲間に見つかり、女が射殺、遺体を埋めて、田舎町に来てガソリンスタンドを始め、アンと恋仲になる。そこにボスの手下がやってきて、屋敷に来るように言う。屋敷で脱税書類を奪うように言われたが、それは罠だった。無実を証明すべくボスに掛け合うが、ボスは情婦に殺され、二人して逃げるが、警察が待ち受けており、情婦はジェフを殺すが、自分も警察のマシンガンで殺される。ジェフの死後、アンはガソリンスタンドのボーイと話す。

ファブラとはちがうシュジェートの時間配置の意味
最初に平和な町で実直に働く主人公ジェフを描くことで、主人公への観客の共感を得ることができる。
過去の話が出てくることで、過去から逃れようとして、逃れられなかった主人公が描かれる。
ファブラでは出てくる出来事をシュジェートでは出来事そのものとして描かないで伝聞ですますこともできる。
『黒い罠』Touch of Evil(1958);爆破犯人の自白は自白シーンを描かないことで、遵法な操作をするヴァルガス検事と、違法な取り調べをするクインラン警部との対比を強調している。

ファブラでは一回しか起きていないことをシュジェートでは何度もくりかえし出すこともある。
例:『市民ケーン』でのスーザン・アレクサンダーのオペラ・デビューは、スーザンの観点とジェド・リーランドの観点から、二度語られる。

物語の構造
3幕構成 Three-Act Structure4部構成 Four-Part Structure (Thompson)
第1幕:提示から転換点まで1.提示から転換点まで
第2幕:困難な状況からクライマックスへ2.困難な行為から中間点の大きな転換点へ
3.展開:目標への葛藤がクライマックスへ
第3幕:行為により解決へいたる4.エピローグ

ふつうの物語映画は3幕構成になっている。
第1幕 登場人物、目標・目的、葛藤が、提示されて、最初の転換点にいたる。
主人公protagonisitが目標に合わせて方法を修正したり、目標そのものをかえたりする。
第2幕 主人公は困難にあったり、敵対者antagonistに出会う。葛藤は数多くなり複雑になり、クライマックスへといたる。
第3幕 大団円(dénouement) 結末 

Kristin Thompsonの説:ハリウッド映画は4部構成をとっている。

そのほかの物語構造

2部構成 
例:『フル・メタル・ジャケット』(1987) 訓練期とベトナム戦線
語りによる枠付けframe narration
例:『カリガリ博士』(1919) フランシスがカリガリ博士が怪人を使って連続殺人をしていたという話をするが、じつはフランシスは精神病院の患者であり、その院長がカリガリ博士だった。
エピソードの語りepisodic narrative さまざまなエピソード(挿話)の集まり。オープンエンド(なんの解決ももたらさない)のことが多い。
例:『大人は判ってくれない』(1959)

古典的ハリウッド商業映画のルール
・明快さ 観客は設定・時間・出来事・登場人物で困惑させられてならない。
・統一性 原因と結果のつながりは直接的で完結していなくてはいけない。
・登場人物 観客が同一化でき、行動的で、目標を追求しなくてはないらない。
・完結 第3幕・エピローグは締めくくりとしてすべての疑問にこたえなくてはならない。
・でしゃばらない職人技 物語は、観客を物語世界に引き込むように、語られるべきで
 語り方がめだつようであってはならない。

多くの映画がこれらのルールをやぶる語り口をしている。
・明快さの欠如 例:市民ケーン、盗聴、ミステリー・トレイン、羅生門、ラン・ローラ・ラン、シン・レッド・ライン
・統一性の欠如 例:去年マリエンバードで、メメント、ハルホランド・ドライブ、レザボア・ドッグズ、
・オープンエンド 疑問や葛藤が解決されない 例:大人は判ってくれない、情事、ミニミニ大作戦、ブロウ・アップ、ブレイク・アップ
・ふつうでない登場人物づくり
-観客が入り込めない(同一化できない)人物 例:バッドランド、盗聴、デッドマン、石油。
-登場人物が行動するよりも、自分の行為について考え込み話す。例:5時から7時のクレオ、My Dinner with Andre、ストレンジャー・ザン・パラダイス、スキャナー・ダークリー
-登場人物の目的が不明 例:卒業、大人は判ってくれない
-語り手が信用できない 例:カリガリ博士、羅生門、ユージュアル・サスペクト
・語り口に注目させようとする 例:アメリカン・スプレンダー、Just Another Girl on the IRT、The Nasty Girl、ドッグビル、ペルソナ、ユージュアル・サスペクト、ナチュラル・ボーン・キラー、主人公は僕だった、脳内ニューヨーク

視点と意味
小説では語り手は重要な役割をもつ。
一人称の語り 「僕は・・・」、「私は・・・」は1人の人物の限定された出来事についての知識と理解に読者を限定する。例:『三四郎』
三人称の語り 「彼は・・・」「彼女は・・・」
 限定された情報のこともあれば、全知のこともある。

焦点化(どの視点から物語が語られるのか)
1ゼロ焦点化:語り手>作中人物 俯瞰視点 語り手は作中人物より多くを語る。
2内的焦点化:語り手=作中人物 共有視点 語り手は作中人物が知っている以上のことを語らない。
3外的焦点化:語り手<作中人物 外在視点 語り手は作中人物が知っているよりもわずかしか語らない。
複数視点の物語:移ろう内的焦点化・複数の内的焦点化 例:『藪の中』、『羅生門』

映画での語り口
完全に一人称の語り口の例:『クローバー・フィールド』(全編手持ちビデオカメラから撮られた映像)
ふつうは限定された語り(一部の登場人物から見た世界を語る)を使うが、重要な時に、全知の語りから情報をあたえて、観客の気持ちをぐっとさせたり、サスペンスをもりあげたりする。
例:すれちがいドラマ(観客は恋人同士がすれちがっているのを知っているのだが、登場人物はそれと知らない。観客はおもわず登場人物に「気づいて!」と呼びかけそうになる)。
ヒッチコック『サボタージュ』爆弾が入っている荷物だと観客は知っているが、登場人物たちは知らない。いつ爆発するのかと観客ははらはらする。
ヒッチコック『汚名』ではアリシアがスパイであることを知った夫とその母はアリシアを毒殺しようとするが、アリシアとデブリンはそれを知らない。全知の語りで観客にそのことを教えることでサスペンスが盛り上がる。

登場人物の主観に観客を同調させ理解させる方法
主観ショット(point-of-view shot):登場人物が見たものを写すショット
 例:『散りゆく花』の主観ショット
登場人物のボイス・オーバー:登場人物の声がみずから語る。
観客への呼びかけ:登場人物がカメラを通じて観客に話しかけること

物語形式
物語の要素:登場人物、行為、時間、場所、因果関係

物語要素の選択と配列
シュジェート:選択され配列されスクリーンに上映された出来事
ファーブラ:シュジェートの背後にある時間順にならんだすべてのできごと

空想世界の提示物語内的:
 物語世界に含まれる部分
 物語外的:物語世界の外にある

構造:
3幕構成、4部構成、枠構造、エピソードからなる構成

語り:全知の語り、限定された語り、主観的な語り

上映会:『スラムドッグ・ミリオネール』 インド映画はすごいエネルギー。
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by takumi429 | 2012-05-05 23:28 | 映画論 | Comments(1)
Commented at 2013-02-13 17:36 x
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